大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和43年(ワ)214号 判決

原告(反訴被告)

秋木商事株式会社

右訴訟代理人

田中親義

被告(反訴原告)

宝洋林業商事株式会社

被告(反訴原告)

多田松吉

主文

被告等(反訴原告等)は、原告(反訴被告)に対し、連帯して、金一三、一三五、四八七円およびこれに対する昭和四一年三月一三日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

原告は、被告会社に対し、別紙第九記載の株券(本件株券)を引渡せ。

被告等のその余の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は本訴反訴を通じ、これを三〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告等の負担とする。

この判決は、原告において被告等に対し各金四、〇〇〇、〇〇〇円、被告会社において金一七〇、〇〇〇円の各担保を供するときは、各勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項同旨、「被告等の反訴請求を棄却する。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、本訴請求原因、反訴答弁として次のとおり述べた。

一  原告は、木材の販売を目的とする会社であり、被告会社は、木材伐採・販売を目的とする会社、被告多田は、木材伐採・販売業を営む者である。

二(一)  原告は、昭和三八年五月二八日、被告会社との間に、別紙第一記載の約定で被告会社から素材を買受ける旨の売買契約(以下第一契約という。)を締結し、被告会社に対し、別紙第三前渡金欄記載のとおり代金前渡金として合計金六、九七五、八二一円を支払つたが、被告会社は、原告に対し、同受入素材欄記載のとおり合計金二、七〇七、六三六円に相当する素材を引渡したのみで、残余金四、二六八、一八五円に相当する素材の引渡義務の履行を怠つた。

(二)  原告は、同年九月二〇日、被告会社との間に、別紙第二記載の約定で被告会社から素材を買受ける旨の売買契約(以下第二契約という。)を締結し、被告会社に対し、別紙第四前渡金欄記載のとおり代金前渡金として合計金一六、二七〇、三一六円を支払つたが、被告会社は、原告に対し、同受入素材欄記載のとおり合計金五、四七四、六八一円に相当する素材を引渡したのみで、残余金一〇、七九五、六三五円に相当する素材の引渡義務の履行を怠つた。

(三)  原告は、被告会社との間に、被告会社から素材を買受ける旨の売買契約(以下第三契約という。)を締結し、昭和三六年六月一六日から昭和三八年一〇月三一日までの間に、被告会社に対し、別紙第六前渡金欄記載のとおり代金前渡金として合計金七〇、一二四、四四五円を支払つたが、被告会社は、原告に対し、同受入素材欄記載のとおり合計金六九、四〇三、三七四円に相当する素材を引渡したのみで、残余金七二一、〇七一円に相当する素材の引渡義務の履行を怠つた。

(四)  原告は、被告会社に対し、前記(一)(二)の各素材引渡義務の履行を催告したところ、被告会社は、昭和三九年一月から同年九月までの間に、原告に対し、別紙第五記載のとおり合計金二、八一七、四二五円に相当する素材の引渡(約束手形、振替金は代物弁済)をしたが、なおも残余金一二、九六七、四六六円に相当する素材の引渡義務の履行を怠つた。

被告会社は、第三契約に基く義務を履行しない意思は明白である。

(五)  原告は、昭和四一年三月一二日送達の本件訴状をもつて、被告会社に対し、前記第一ないし第三契約を解除する旨の意思表示をした。

三  原告は、昭和三六年六月一日、訴外秋田木材株式会社から、営業譲渡により、右訴外会社(名古屋支店)の被告会社に対する金一六八、〇二一円の債権(前渡金返還請求権)の譲渡を受けた。

四  被告多田は、原告との間に、被告会社の原告に対する前記各債権について、昭和三八年一二月二一日金一〇、〇〇〇、〇〇〇円同月二八日金五、〇〇〇、〇〇〇円、合計金一五、〇〇〇、〇〇〇円の限度で、被告会社と連帯してその支払の責に任ずる旨の連帯保証契約を締結し、その支払を担保するため、手形金額金五、〇〇〇、〇〇〇円(支払期日白地)の約束手形三通を、原告にあて、被告会社と共同して振出した。

五  よつて、原告は、被告等に対し、連帯して、前記第一ないし第三契約の解除による原状回復として代金前渡金の残金一二、九六七、四六六円および前記譲受債権金一六八、〇二一円、総計金一三、一三五、四八七円ならびにこれに対する本件訴状送達(被告等)の翌日の昭和四一年三月一三日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

六  被告等主張二の事実中、(三)の(1)の事実は認めるが、その余の事実は争う。

七  原告は、被告会社に対する本訴債権を被担保債権とする質権の目的として、本件株券を正当に留置している。

被告等は、「原告の請求を棄却する。原告は被告等に対し本件株券を引渡し、金三、二五〇、一六〇円およびこれに対する昭和四三年二月二二日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、本訴答弁、反訴請求原因として次のとおり述べた。

一 原告主張一、三の事実は認めるが、二、四、七の事実は争う。

二 仮に被告会社が原告に対して金一三、一三五、四八七円の返還債務を負うとしても、被告会社は、本訴において合計金一九、八八七、三九八円の左記債権をもつて、原告の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をする。

(一)  被告会社は、昭和二七年七月頃、原告との間に、被告会社が他から買入れた山林立木をそのままの姿で原告に売渡し、元の所有者から買受けるときの諸調査費および買受代金の金利を含め買受代金の七パーセント増し価格をもつてその売買価格とし、被告会社が右山林立木の伐採搬出を請負い、伐採搬出労務賃金送材一石当り金八〇〇円、労務者、労災保険料労務者厚生費伐採搬出機械器具消耗費搬出土場借地料等送材一石当り金二〇〇円、以上送材一石当り合計金一、〇〇〇円をもつてその請負価格とする旨の山林立木取引契約を締結し、昭和三五年一月から昭和三八年一二月三一日までの間に、別紙第七記載の山林立木買受代金総額金九四、三八六、〇〇〇円に相当する山林立木を売渡し、別紙第八記載の山林立木等総計四四、三二一石の伐採搬出送材をした。

ところが、原告は、(1)右買受代金総額金九四、三八六、〇〇〇円、(2)前記調査費・金利等として右金額の七パーセント相当額金六、六〇七、〇二〇円、(3)右請負代金総額金四四、三二一、〇〇〇円、以上合計金一四五、三一四、〇二〇円の支払をしない。

(二)(1)  被告会社は、昭和三四年頃、原告に対し、代金三、〇〇一、七五一円に相当する木材を売渡したが(原告は右木材の送先を訴外深田木材株式会社と指定)原告は、右売掛代金全額の支払をしない。

(2)  被告会社は、その頃、右木材を右訴外会社に送つた。

(三)(1)  原告は、昭和三八年四月一〇日、被告会社から、被告会社の所有に属する本件株券を受取りこれを占有し、被告会社の返還請求に応じない。

(2)  従つて、原告は本件株券額面相当合計金額金五〇〇、〇〇〇円を被告会社に返還すべき義務がある。

(四)  その後、被告会社は、原告から、山林売買代金として金九四、三八六、〇〇〇円、売買山林の伐出請負代金として金三四、五四二、三七三円、以上合計金一二八、九二八、三七三円の支払を受けた。

(五)  結局、原告は、被告会社に対し、右(一)ないし(三)の合計額から(四)の金額を控除した残額金一九、八八七、三九八円を支払うべき義務がある。

三 二の(三)の(1)事実に基き、原告は、被告等に対し本件株券を引渡す義務がある。

四 二の(一)、(四)の事実に基き、被告会社が原告から支払を受くべき金額は、差引残額金一六、三八五、六四七円((一)の金額より(四)の金額を控除した額)となるところ、被告会社は、原告に対し、内金一三、一三五、四八七円の債権につき本訴において相殺の意思表示をしたから、相殺後の債権残存額は、金三、二五〇、一六〇円となる。

五 よつて、被告等は、原告に対し、本件林券の引渡ならびに右金三、二五〇、一六〇円およびこれに対する本件反訴状送達の翌日の昭和四三年二月二二日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため反訴に及んだ。

証拠<省略>

理由

原告主張一、三の事実は、当事者間に争いがない。

<証拠>によれば、原告主張二の(一)ないし(四)の事実を認めうる。証人多田末光の証言中右認定に反する部分は採用できない。

原告主張二の(五)の事実は本件記録上明らかである。

<証拠>によれば、原告主張四の事実を認めうる。乙第七号証の記載および証人多田末光の証言中右認定に反する部分は採用できない。

従つて、被告多田松吉は、不特定物の売買契約における売主の債務についても保証したことになる。

最高裁判所昭和四〇年六月三〇日大法廷判決(民集一九巻四号一一四三頁)は、「特定物の売買契約における売主のための保証においては、通常、その契約から直接に生ずる売主の債務につき保証人が自ら履行の責に任ずるというよりも、むしろ、売主の債務不履行に基因して売主が買主に対し負担することあるべき債務につき責に任ずる趣旨でなされるものと解するのが相当であるから、保証人は、債務不履行により売主が買主に対し負担する損害賠償義務についてはもちろん、特に反対の意思の表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても保証の責に任ずるものと認めるのを相当とする。」と判示した。

しかし、右判示は、特定物の売買契約における買主が、売主の債務不履行により契約が解除された場合における代金返還義務の履行を、売主のための保証人に対し請求した事件においてなされたものである。

人的担保手段としての保証の制度目的から考えて、特定物の売買契約における売主のための保証人のみならず、不特定物の売買契約における売主のための保証人も、特に反対の意思表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても、保証の責に任ずるものとするのが相当である。

これを本件についてみるに、第一ないし第三契約の売主たる被告会社のための保証人たる被告多田が、被告会社の素材引渡債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務について保証の責に任じない旨特に反対の意思表示をしたことを認めうる証拠はないから、被告多田は、原状回復義務(買主たる原告から被告会社が受領した代金前渡金の返還債務)についても、保証の責に任ずるものと解するのが相当である。

被告等主張二の(一)の事実については、これに添う証人多田末光の証言は採用できず、他にこれを認めうる証拠はない。

被告等主張二の(二)の(1)の事実に関する<証拠>によつては未だ右事実を認めるに足らず、他に右事実を認めうる証拠はない。かえつて<証拠>によれば、右事実がないことを認めうる。

被告等主張二の(三)の(1)の事実は、当事者間に争いがない。

しかし、右事実のみによつては、被告等主張の株券額面相当合計金額金五〇〇、〇〇〇円の質権の発生を認めえない。

従つて、被告等主張の相殺の抗弁は失当である。

原告主張七の本件株券につき質権取得の事実を認めうる証拠はない。

従つて、原告の質権取得の抗弁は採用できない。

以上の認定事実によれば、被告等は、原告に対し、連帯して、第一ないし第三契約の解除による原状回復として代金前渡金残額金一二、九六七、四六六円と本件譲受債権金一六八、〇二一円との合計金一三、一三五、四八七円およびこれに対する昭和四一年三月一三日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告は、被告会社に対し本件株券を引渡す義務がある。

よつて、原告の被告等に対する本訴請求および被告会社の原告に対する本件株券引渡反訴請求は理由があるからこれを認容し、被告等の原告に対するその余の反訴請求は、理由がないからこれを棄却し、民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。(小西 勝 杉島広利 辰己和男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例